「再生可能エネルギー関連技術実証研究支援事業」 “ブロックチェーンを活用した電力取引” 実証結果を福島県へ報告
2018年03月22日株式会社会津ラボ
株式会社エナリス
~ ブロックチェーンの有効性などを検証 ~
エネルギー・マネージメントシステム(EMS)開発に取組む株式会社会津ラボ(本社:福島県会津若松市、代表取締役社長:久田雅之、以下、会津ラボ)と、エネルギー事業を展開する株式会社エナリス(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:小林昌宏、以下、エナリス)は、「ブロックチェーンを活用した電力取引サービス」の共同検証を進めています。
平成29年6月に、福島県が実施する「再生可能エネルギー関連技術実証研究支援事業」に採択され、両社はブロックチェーンを活用した電力取引等の実証事業を、福島県内で実施してまいりました。この度、その実証実験が終了し、その結果を福島県に報告しましたので、お知らせいたします。
今般の共同実証事業は、一般家庭の電力使用データを活用してディマンドリスポンス(以下、DR)(※1)や見守りサービスを行う際に、電力使用(抑制・遮断)データの記録基盤としてブロックチェーンが有効に働くかを検証することを目的として行いました。
実証には、福島県内の一般家庭に協力をお願いして、コンセント型スマートメーター「スマートプラグ」を配付・設置し、各家庭の電力データの記録には、分散型台帳技術ブロックチェーン基盤「Hyperledger Fabric」(※2)を採用しています。
なお、本実証事業には、公立大学法人会津大学(所在地:福島県会津若松市、理事長兼学長:岡嶐一、以下、会津大学)が技術実証アドバイザリーとして参画しました。
- ※1:ディマンドリスポンスとは
卸市場価格の高騰時または系統信頼性の低下時に、電気料金価格の設定やインセンティブの支払いに応じて電力の使用を抑制するよう、需要家側に電力消費パターンを変化させること - ※2:Hyperledger Fabricとは
「Hyperledger Fabric」は、The Linux Foundation でホストしている Hyperledger プロジェクトの 1つで、エンタープライズ向けに構築された、主要なオープンソースの汎用ブロックチェーン・ファブリック
■ ディマンドリスポンス実証
- 目的
DRに一般家庭が参加する際に、ブロックチェーンを介した電力取引が有効に機能することを検証する。 - 実施概要
常時スマートプラグで計測してブロックチェーン上に記録されている家電の電力使用データを活用し、以下の流れでDRを実施。- 模擬のDR要請を発令(3時間前要請)
- ブロックチェーン上に記録されている家電の使用データから、対応可能な需要家を選定
- 需要家にDR要請を行い、承認をもらう
- DRの実施
- 抑制量の報告
- ■ 実施場所:福島県(会津若松市、いわき市、郡山市、浪江町、福島市、本宮市)
- ■ 実施規模:約400世帯(スマートプラグ1471個)
- ■ 実施期間:平成29年12月〜平成30年2月末日
- ■ 検証のポイント:
- ブロックチェーンを介したときの処理速度
- ブロックチェーンのセキュリティ
- ブロックチェーンの可用性
- ■ 各社の役割
- エナリス:アグリゲーターとして、電力会社のDR要請と需要家のとりまとめ
需要家向けアプリの開発 - 会津ラボ:スマートプラグを介した電力データの取得と、ブロックチェーンへの書き込みの実施
- 会津大学:全体の技術支援
- エナリス:アグリゲーターとして、電力会社のDR要請と需要家のとりまとめ
- 結果(一部)
1区画(20世帯)において実施した模擬DR結果 - 検証結果
- ブロックチェーンを介したときの処理速度
ブロックチェーンが介在することで、処理速度が遅くなることが懸念されたが、今回の3時間前に要請のあるDRを実施する場合、特に処理速度に問題はないことがわかった。 - ブロックチェーンのセキュリティ
ブロックチェーンの耐故障性、耐改ざん性によってセキュリティは強化された。
※「プライベート型」のシステムを採用 - ブロックチェーンの可用性
本実証においては、ブロックチェーンの介在者はエナリスと会津ラボの2社のみだったが、介在者が多いほど可用性が高まるブロックチェーンの特性上、今後、ノードの保有者が小売電気事業者、発電所や消費者まで普及すれば、現在の中央サーバー型よりも障害耐性が高まることが想定される。
- ブロックチェーンを介したときの処理速度
■ 見守りサービス実証
- 目的
一般家庭の電力データを活用して見守りサービスを行う際に、ブロックチェーンを活用することが有効であるかを検証する。 - 実施概要
常時スマートプラグで計測してブロックチェーン上に記録されている家電の電力使用データを活用し、電力の使用状況に異常を検知した際に、登録者にアラートを送るサービスを実施。- ■ 実施場所:福島県浪江町
- ■ 実施規模:数十世帯
- ■ 実施期間:平成30年2月1日~平成30年2月末日
- ■ 検証のポイント:
- ブロックチェーン使用による情報の秘匿性
- ブロックチェーンのスマートコントラクト機能の活用
- ブロックチェーンの可用性
- ■ 各社の役割:
- エナリス:ブロックチェーンに書き込まれたデータを活用したサービス企画(アプリ開発を含む)
- 会津ラボ:スマートプラグを介した電力データの取得と、ブロックチェーンへの書き込みの実施
- 会津大学:全体の技術支援
- 検証結果
- ブロックチェーン使用による情報の秘匿性
本実証で採用した「プライベート型」ブロックチェーンは、当事者以外は電力使用量データを閲覧できないため、情報の秘匿性には問題がないことがわかった。
だれでも閲覧が可能となる「パブリック型」ブロックチェーンでは、見守り生活者の生活パターン等から属性を類推することが可能となる懸念がある。 - ブロックチェーンのスマートコントラクト機能の活用
見守り対象者と登録者との契約管理や、一定の条件で警報を発するサービスなどにスマートコントラクト(契約の自動執行)機能は相性が良い。 - ブロックチェーンの可用性
本実証においては、ブロックチェーンの介在者はエナリスと会津ラボの2社のみだったが、介在者が多いほど可用性がたかまるブロックチェーンの特性上、今後、介在者が増えれば現在の中央サーバー型よりも障害耐性が高まることが想定される。万が一に対して適切な対処が必要となる見守りサービスのようなサービス運営には向いていると考える。
- ブロックチェーン使用による情報の秘匿性
■ 実証全体のまとめと次年度の展開
本実証による検証の結果、ブロックチェーンは、分散型が進む電力取引において処理速度を損なうことなく、セキュリティ、可用性を大幅に向上する可能性が高いという結論に至りました。ブロックチェーンのこうした可能性は、システム投資の大幅抑制や、大手小売電気事業者だけではなく中小規模小売電気事業者への事業機会拡大につながると予想しています。
次年度以降の実証においては、福島県内でのP2P電力取引を実施し、約定(マッチング)機能とインバランス等まで含めた検証を行うことを計画しています。
電力取引を一般に普及させるためには、売り注文と買い注文を効率的に約定させることが重要です。そのため、市場運営者やネガワット・アグリゲーターは注文を自市場に集中させることになりますが、こうした約定処理に、分散したネットワーク上で処理を行うブロックチェーンが適しているかについて、検証を行う必要があると考えています。(仮想通貨取引所などでは約定処理を中央サーバーで行うケースが多いです。)
また、電力取引においては、約定後に発生するインバランスをブロックチェーン上でどのように取り扱うかについても、課題であると考えております。
■ 関連情報
■ 参考資料
会津ラボとエナリスは、ブロックチェーンを活用したエネルギーシェアアプリ「サーキュラ」を開発しました。
本実証でも、需要家との情報共有ツールとして「サーキュラ」を使用しております。